NHK「あの人に会いたい」−55

19歳のとき、安井清隆さんという19歳年上の方から、その切っ掛けのグリーンのソロ・アルバム「In The Skies」を確か\500で買った。1979年度作品、盤は透き通り式緑色のイギリス製のオリジナル。いつも理屈っぽく口数が多いこの人が言った言葉は笑顔で「いいよ〜、これ。ま、家で聴いてみな」だけだった。このアルバムは強烈に渋い音で、白人ブルーズ・ロックの中にあっても渋さは別格である。当時19歳でハード・ロック、へヴィ・メタル、プログレシッヴ好きの僕にはつまらなかった。しかし1年ぐらいして、手に取りプレイヤーに掛ける機会が訪れ、A面2曲目″Slaybo Day″というナンバーで「電気が走る」的な、金縛り状態で言葉を失う体験をしたのだった。これは、ギターのインストもの、作曲はグリーン。リズム・ギターがグリーンで、ソロでリードを取るのがスノーウィ・ホワイト。夕飯を食い終わり、まだ満腹感が残る7時半ぐらいに聴いた。四畳半の中、仰向けっぽい態勢で左右スピーカーの中央に身を置いていた。バッキングが胸にきた。ソロが腹にきた。「ああー、ずうっとこうしていたい」。集中力を欠くとこの感覚が失いそうになる。「ああ、嫌だー、消えないでくれー」。目を瞑り、音に耳を集中させる。少し感覚が舞い戻る。やがて、どうしようもなく、小さくなり消えた。これは忘れられない。不思議ながら今はこれを呼び戻せない。何だったのだろう。