NHK「あの人に会いたい」−51

僕はカウンターで飲みながら待った。僕は粋がったかもしれない、普段飲まないウイスキーを2杯ぐらい飲み参ってしまった。店の人が「寝ても良いよ、寝な」と言うので、カウンターに両腕を乗せて頭を置き寝た。途中、トイレに行こうとしたら足元が狂い、壁に頭をぶつけて下に佇んだ。店の人が「おい、大丈夫かっ?!」とカウンターから出てきて気遣ってくれた。「あ、髪の毛が一杯落ちてるぞ」と発見し指摘してくれた。茶髪にしたばかりの関係で、洗髪のときも抜け毛がよく出ていたのだ。さほどの痛みでなかったので気にならず「大丈夫です、すいません」とトイレへ行き、確か口に指を入れて吐いたかもしれない、違ったかな。トイレから戻ると店の人が心配そうにしている中、再びカウンターに付く。少し寝て話し声で目覚める。薄目が開いたその方向は、一人越しに近藤房之助さんの横顔がちらちら見えた。TVで知っていた。「ありゃー。本物が来るのかよー、何か気の利いたことでも言えなきゃ、緊張するー、どうしよう」と僕の頭の中は、悪い癖である自意識過剰心理がむくむく発揮され出した。という一方でアルコールによる頭ぼんやり状態ながら近藤さんの話しが部分的に耳に入る。店のスタッフに話していたようだ。「ブルーズは俺の基本だな」「昨日、レスター・ヤングを聴いたが素晴らしい。あの感情の素晴らしさったら何なんだろうなぁー」「アメリカへ行ったとき、名前は言えないがある有名な黒人ミューシャンが俺に『日本のアーティストはほとんどが大したことはない。スターになってわかったがそれは大変な努力が要る。日本でスターになったのは矢沢だけ』って言ってたね」。どれも耳に残る話しだ。部屋に閉じ篭もってTVの話しを見聞きしていても、こういう迫力感は味わえないだろう。