NHK「あの人に会いたい」−28

つまり僕は、手が差し出される前に視線を逸らしていた、という気がしてならないのである。翻って今振り返るに、何某かすぐさま気を取り直す作業に取り掛かれていたら、下を向いている自らの顔は持ち上げて相手の視線に目を合わせるまでに挽回する可能性は残されていたと思う。その目と目が合った0.5秒程の一瞬が過ぎたのち差し出された手に自ら手を合わせ握られた局面で、何とか、偶然でも何でも、自ら気持ちを奮立たせ意識をしっかり持つ心境に立つ、そんな目が覚めるような180℃逆様の異変が生じる思し召しが降臨していたらなぁと思う。そのように実現していれば、相手が自分の手を握った真意その送られて来たシグナルをしっかりキャッチし、相手へ握り返してそのシグナルを送り返せたのだ。「よろしく」という送られて来たメッセージに対して「こちらこそよろしくお願い致します」と僕個人がこの日本でビッグな矢沢さんへメッセージを送り返す、そんな人生の一大事が成立したのだ。しかし、もう、顔は上げられなかった。ビビリ捲り精神状態に嵌まっている僕は、もう、相手の目は見られなかったのだった。″パッ″と手を離されたとき「見放された」となぜか咄嗟にそういう気が回った。さらに、自ら察して「見放された=相手にされていない」と進展する。自分は勇気が無い人間であると自覚しているからこそ辿った発想とでも言えようか。