NHK「あの人に会いたい」−16

後日、別の課で2歳上の伊藤さんという方と渋谷区の放送所を一緒に回った帰りの道中、古本屋があり、その歩道に面した書棚に矢沢さんの『成りあがり』が陳列されていた。「買っておいた方がいいよ」と伊藤さん言うので購入した。副題は「How to be BIG―矢沢永吉激論集」とあった。読書は苦手でダメだったのだが、これは読み出すといけた。生い立ちの頃から始まり、一生懸命頑張って生きて来た事を綴った緊迫感あるものと記憶している。読後ショックを覚え「俺も永ちゃんみたいに頑張るぞ」と触発された読者も出て来よう。若ければ若いほど、しかも「頑張らなきゃいけない」というメンタル面のお強い体育会系の男には切実に訴え掛けてくるものがありそうだ。当時から体育会系でも何でも無いダメダメ系の僕でさえ一瞬「頑張らきゃいけない」と思ったのだから。僕は言うまでも無く頑張るっちゅうもんは疲れるから嫌でもう面倒くさいから従い長続きせず今現在の中途半端な状態を演じ続けている。そうこうしない内「成りあがり」を無事に読み終えて矢沢さんとの対面の機会が訪れた。世のビジネスマンの勤務時間終了の平日夕方、僕が所属する課7人ぐらいの一行は事務所の方とある駅で待ち合わせをして、電車でラジオ放送局へ向かった。多分、TBSだっただろう。到着しその放送局内へ一緒に入り、局スタッフの方が臨時に用意してくれたパイプ席に着いて見学させてもらう。番組は「ちびっこギャング」という2人組みのお笑いコンビがDJだった。DJブースの中へは事務所の方々、レコード会社の制作と宣伝の各担当者の最も近い関係者が入室し、我々7人ぐらいはそのブースのガラス越しから離れた4,5メートルの位置で着席にて進行を見守った。この際、一緒に入室出来る出来ないに差したる問題はない。逆に一緒に入室するのは、礼節に失し、相応しい者が相応しい場に位置するという適材適所に反する行為と思ったほうが利口だ。狭いながらもブースに入るのは物理的には可能であろうが、そういうある特定のわがままな力学が働くことは、アーティストへ何かしら心的負担を強いられ集中力を欠く恐れを招く。そんな不必要なことは誰も望むべくもない。ブース内で人が立ち並ぶだの何だののギューギュー詰めでは、落ち着いてゆっくりしゃべれないであろう。不適格な環境である。邪魔はいけない。