NHK「あの人に会いたい」−13

RCサクセションの¥980の本を一時期もっていたことがある。初めて見たのは小6のとき。裏のお兄さんが見せてくれた。その本表紙のメンバーが佇む写真を目にして、派手でなんだかやりたいことやっていて気持ち良さそうだなと感じた記憶がうっすらとある。お兄さんは駆け足でこの中身をペラペラと捲って見せてくれた。「これ(写真)、かっこいいべっ?!」とか「うひぇひぇひぇ、これ、おもろいべっ?!」とか、自分が通う私立中学校のクラスで流行り出して自身もまだ使いたてだと思われる、語尾に「べっ」を付けながら指し示してくれた。その中で、お兄さんが他人に一番強調したかったであろう箇所が提示された。お兄さんは清志郎さんのメイク前と後の顔写真のページを開き「これ、清志郎。化粧まえと化粧あとの写真。化粧したほうがいいだろ」と語尾には「べっ」は付かず、まじめな顔でこっちを見て言った。お兄さんの部屋で一緒に座って見ていた僕は、日常使われる「だろっ」という語尾が、お兄さんの本音が出ていたように感じた取ったのだった。僕はこれには共感出来た。素顔よりメイク顔の方が、本の表紙写真から感じ取れるのと同様、メンバーの人体から放たれた無敵さを勝ち誇るフリーなエネルギーが現れているものと相通ずるかっこよさを見出せたからだ。が一方で、そのメイク容姿に怖さも覚えた。たとえば僕がこのようにメイクを施すなんてとてもとても思わない。手出し出来っこない。頭の中が「カッコイイ」で100%埋め尽くされたなら「俺もメイクしてみたい!」と強烈な、動物的欲求を覚えるはずだ。僕にはそういう気持ちが湧き上がるには至らなかった。そういう衝動は起きなかった。とは言え、憶測するにこれは「別世界へ飛び込もう」と自分自身に踏み出す勇気がないと云う以前の次元かもしれない。それを意識する精神年齢にまだ達していなかったと振り返る。怖さで漠然とただただ不安に陥って思考停止状態の域を出なかったんじゃないか。よくわからなくなってしまった僕だが、普段から携えていた、お兄さんに褒められたいという気持ちも手伝い、カッコイイと賛成するフリを見せつつ、しかし完全にはよくわからないというフリも演出しつつ、社交辞令のような「う〜ん」と曖昧な、結局煮え切らない反応を返してしまった。僕の横にはお兄さんの少2の弟さんが座って一緒に見ていたがその顔色は僕よりもっとよくわからないような様子でポカーン状態だった。しばらくして再度、弟さんの方を向けばコックリコックリとうたた寝を始めていた。