LP「RUSH/SIGNALS」(続)−15

当時恵比寿勤務先近くに、一応オーディオに詳しそうなオヤジさんの古道具屋があった。オーディオ機器は多く揃っていた。ここでビクターのレコード・プレーヤーを¥27500で買った。「ダイレクト・ドライブだから壊れにくい代物。クオーツロックシステムだから回転数は一定に制御され不正は起こらない。音楽、好きそうだね。¥54000だけど君なら半額でいい。新品の¥5万台を買うより中古の¥5万台の方が、モノの性能は良いんだよーぉ」と俺の右肩に手を置いた。「中古で¥5万ってことは、かつて新品だったときは¥10万以上ってところかな」と続けた。俺もちょいちょい節目で疑問を呈したり、頷いたり、質問したが、ハッキリした物言いが機敏に返って来た。知らないことも教わった。「大金だが、音楽のためなら多少失敗してもいいや」と結構好感が働き購入したのだった。16年経過した今も使っている。全然壊れる気配なし。丈夫である。その後も何度か訪れた。ある日、珍しく他の客と居合わせた。オヤジさんが「この人もオーディオ詳しいよ、〇△×☆というすごい会社に勤めてる人、いろいろ訊けば」と俺に言う。やはり今の俺の年齢ぐらいの人だったかもしれない。クラッシックから中森明菜まで何でも聴くというそのカジュアル・スーツのその方は「(機器は)どんな感じで聴いてるの?」と尋ねてくれた。「真空管アンプヤマハの3ウェイのスピーカーです」と答えると、横からオヤジさんが「ヤマハって、NS?」と追随、「はい。6百なんとかです」と俺、「6百?6百なんてあったかなー?」とオヤジさんは下を向いて考え込む。「あぁー。はいはい。あの茶色いやつでしょ?」とスーツ姿の方が応じてくれる。そう、茶色のスピーカーなのだ。ちょっと古臭くボロい色と思っていた(今は、茶色は良いと思うようになった)。「そうです」とよく知っているなぁと内心関心していると、「あぁ。それで良いじゃない。そのままで聴いていればぁ。充分でしょ」という評価を受けた。俺の想像が誤りではないことが保障され安堵した。そのあと、オーディオのことで来社しても構わないと名刺を頂いて分かれたが、あれっきりお会いしていない。頂いた名刺はホルダーに収めまだ持っている。