LP「RUSH/SIGNALS」(続)−13

当時、イギリスのプログレシッヴ・ロックとハード・ロック一辺倒だった俺は頭から「ポップなものはこだわりを有していないからつまらない、軽い。聴くべきではない」と決め付けていた。安井さんの影響もある。クラシック以外はいろんなポップ・ミュージック、ジャズ、ブルーズ、民族音楽NHK・FMで)などにチャレンジした。しかし、よくわからなかった。「音楽評論家になるために」という小倉エージさんの本の中で「音楽を聴いたら、〝わかる″を目指すのではなく、〝感じ″よう。感じてから〝わかる″努力をしようよ」という下りがあった。これらのジャンルを聴いて〝感じ″た瞬間はあるにはあった。「ニヤッ」と面白がれる場面もあった。しかし「わかる努力」という行動には発展しなかった。面白くない作業だからだ。しかしこのまま音楽を「井の中の蛙」的にしか知らないのは恰好悪いし、第一そんな事ではいけないという考えが本能的に残っていた。「感じる」「わかる」には囚われず、何か好きになれるものはないか探し続けた。そんな俺にようやく変化が現れた。FM横浜が、月〜金の深夜3〜4時に、ポップ・ミュージックのアルバム1枚丸々掛けっ放しする番組があった。お金が掛らずに色々な音を知れて勉強になる有り難い番組だった。タイマー録音していた。ある日「Steely Dan / Gaucho」が取り上げられた。ポップなものを受け入れられた切っ掛けを作ってくれたのがこのアルバムだ。プログレやハード一辺倒からポップな世界への突破口を開いてくれた。この時点で、安井さんの影響下を離れて違う道を歩み始めた。フリマで購入したYAMAHAのスピーカーで、真空管トランジスタ(やっぱりフリマで入手した¥2000の中古:ビクター)のアンプの聴き比べをした。「Steely Dan / Gaucho」の一曲目「Babylon Sisters」に針を落とす。全然違う!真空管の方が、音像がくっきりはっきり聴こえる!ライド・シンバルの、気付かなかった音が耳に入り込んで来た。〝こんな音入っていたのか?!″と「ハッ」とさせられ言葉を失う。3曲目「glamour profession」に至ってはもう夢気分で連続8回ぐらい繰り返し聴いた。パティ・オースティンとバレリー・シンプソンの素敵なバック・コーラスに大人の女の魅力を感じたなぁ。この出来事は忘れられない。レコードは、良い音で聴かないと、その盤に収まっている宝物を逃してしまうのだという怖い経験をした。