LP「RUSH/SIGNALS](続)ー6

歩行速度に変化はないが、歩幅が心なし、段々小さくなっていったやもしれぬ。ゆっくりじっくり観察しようという根性の現れか。小刻み歩行までには至らず。〇〇さんとの距離が狭まり「テレビと全く同じだ」と再確認をし、その容姿たるやをよーく目に焼き付けておこうと、ジーッと見入った。頭の片隅で失礼な行為であると承知はしていたが、どうも、興味心の方が優っちゃったのだった。〇〇さんは自転車の鍵を解除中で下の方を向いていた。店のドア前付近に差し掛かる。すると、サングラス顔の〇〇さんが急に顔を上げ、こちらを向く。サングラス顔を一瞬だがしっかり見てしまった。ずうっと顔を合わせたままに、というわけにはいかない。そして恐怖心もある。俺は0.5秒と経たないうちに当然ながら顔を背けて、そのまま店に入る。〇〇さんはこちらの視線を感じたからこちらを見たのだ。そのサングラスが「何だ?ジーッと見て?文句でもあるのか?」と言っているようだった。店内へ入って振り向きガラス越しから、その後の〇〇さんを再び見る。ペダルに足を掛け、自転車を押し、サドルに跨り、漕いで行き、姿が見えなくなった。漕ぎ始めは、心なし、ハンドルが左右にヨロヨロと揺れていた。自転車の操作にまだ慣れていないのだろうか。春先の陽が差す真昼の茶沢通りに自転車で通過する〇〇さんの姿というギャップったら、それはもう、天と地ほどの差だった、と云ったら言い過ぎであろうか。しかし、〇〇さんに茶沢通り及び自転車という光景は実に似合っていなかった。受付にいた男の店員に「〇〇〇〇さんですよね?」と確認すると「えぇ」という返事。確認する必要なんてないのだが、高揚した気持ちをが押さえられず、そばの人に声を掛けずにいられなかった。店内を一周して「どうもぅ、すみませーん」とレンタルせず出た。この日のちょっと前、テレビか何かで誰かが「〇〇さんは大の映画好き」と言っていたのを聞いたのだった。ビデオが入ったあのビニール袋のふくらみ具合は、1本じゃない。3本は入っていたであろう。