LP「RUSH/SIGNALS」(続)-5

茶沢通りはたまに使うルートで特段愛着はない。世田谷区へ転入し今年で19年目を迎えるが、この通りを初めて自転車で走ったのは転入した年だ。交通事情や周りの風景に変化はない。この通りにおいて、一つだけ強烈な思い出がある。今の住まいへ越して来た前後だから、4、5年ぐらい前か、サミットから三茶方向へ坂道を下り、平坦な道になってしばらく進むと左側に以前レンタル・ビデオ店があった。何回か借りたものの、ほとんど行かなったところだ。ある休日、この店の近くまで差し掛かると、〇〇〇〇さんの姿があったのだ。いきなり〇〇〇〇さんだとわかった。金髪ロング・ヘアーで黒のサングラスに(たしか)黒ずくめの服装、ひょっとしたらコートを着用していたかもしれない。これは強烈であった。「テレビと全く同じだ」と欲求に駆られてジーッと見た。本物だと確認したいのか何なのか割と長めに見続けたかもしれない。次に「えぇ、こんなところにどうして?」と疑問炸裂である。ビデオが入ったビニール袋を手にぶら下げているのが目に入った。ビデオ店から出て来たところだったのだ。そして自転車に手をやっている。俺は借りる気なぞこれっぽっちもないのに、いかにもレンタルするという客を装って、その店の歩道上に、〇〇さんとは少し離れて自転車を止める。〇〇さんの横を通り過ぎて有名人をただ目撃した、で終わるのは何とも解せない気分に襲われ、近づきたい、すると(自分の心もちは)どうなるのかといったロマンというのか実験というのか、何かしらドキドキ感を求めて、強制的に自転車を止めたことを覚えている。自分の自転車に鍵を掛けているときから色々とドキドキしていたが、レンタル客だと振舞わなければならぬ。〇〇さんに近付く工作という雰囲気がバレバレではいけない。そのような不自然な動作が露呈してしまっては本人に「バレてしまう」と胸中穏やかではなかった。店のドアの方へ、歩み始める。自然に、である。いや、何かしら足の運びはゆっくりめだったかもしれない。その間、〇〇さんの方を伺い見、こちらに気なぞ留めてない様子がわかり見続ける。図々しく盗み見開始と云えなくもない。