NHKテレビ「SONGS」で八神純子ー4(終)

その〝想い出のスクリーン〝、アレンジを変えて演奏された。オリジナルの、トレードマークとも云えるあの出だし、切ない泣きのギターのリフレインを大胆にも抜いてアコースティックな響きに置き換えて微笑み含みでSINGしていた。この曲に付随した微笑みとは、僕の頭の中では一瞬違和感を持って反応しつつも然しこの余裕さみたいものは何かと読みを入れた。月日は流れ、あのA・TU・I一途な想いは程よく冷めたの如くその佇まいはリラックスした大人の女のややもするとセピア色がかったかもしれぬ良き想い出のスクリーンと化した、といったところか。なお、このナンバーのドラム担当は山木秀夫さん。渡辺真知子さんの各アルバム・クレジットを見ているとよく名前が載っており何かの写真で顔も知っていた。これは今まで誰にも話したことがないが7年ぐらい前、労働中ばったり山木さんと自分のお互いの体が30cm距離で一緒になったことがる。僕はマンション内で一件一件水道メータの検針を行なっていた。あるドアまで来て検針をしていると突然ドアが開きその住人が出て来られた。ドアが開いたので邪魔にならぬよう「すいませーん」と声を発しつつ若干我が身を交わし顔を見ればいきなり山木さんだったわけである。「あっ、あれっ、山木さんだ」。主に洋楽ファンの僕は山木さんの経歴やプレイ自体に特別詳しいわけではない。しかしプロフェッショナルの音楽人にまじかに会うなんて嬉しいものだ。"僕はドラマーの山木さんであることを知っています〝と表情に笑みを含んで我が肩を上げ気味に「こんにちはぁーっ」と声色にもそのオーラを演出して軽く頭を下げ普通の人とは違う挨拶をした。山木さんは「こんにちは」と返してくれた。去り際のその横顔を見たが〝俺の事知ってるのかな〝みたいな笑みにも受け取れたが真相はどうであろうか。やがてしばらくすると女の人と少女が出て来た。〝あ、奥さんと娘さんだ。こりゃ凄い、有名人の家族と会ってしまった〝と嬉しい気持ちのまま「こんにちは」と挨拶した。奥様もまた僕にお返し下さった。その検針票にはしっかりそのフルネームが印字されていた。これはそのときまでずうっと気付かなかった。帰り際嬉しくてマンション管理人さんに尋ねてしまったがどういう対応だったかは覚えていない。八神さんのライブは一度体験がある。10数年前、二子玉川園駅近くのアリーナ・ホール?で観た。小さいホールであった。印象的なのはバックビートを前面に出したアレンジで演奏された〝みずいろの雨〝だがこれがカッコ良かった。また、ギタリストが八神さんの口からワー・ワー・ワトソンとの紹介があってビックリした。70年代のハービー・ハンコックのグループ在籍時ライブ盤でそのプレイは知っていたがギターはやっぱり〝ワー・ワー〝云ってて「あ、本当だ」とこれまた嬉しかった覚えがある。そういえば去年秋に「200cdブラックミュージック」という本で知ったこの人のレコードをシモキタにて\600で購入した。ちょっとつまらんかったと思うがまたあとで聴き直すとしよう。さて番組では冒頭のほう、18年ぶりに地元名古屋の音楽教室へ行った時、それからスタジオ内で一曲目の〝思い出は美し過ぎて〝を披露した時、どちらもカッコ良く黒いブーツで決めていた。この黒いブーツは八神さんにとってどんな意味があるのだろう。訊いてみたいことの一つだ。