渡辺真知子 Live at Sakura Hall―5

着席後10分経過とは言え、長く感じた待ち時間であったが、静かにステージ前面の左右のスピーカーから音が聞こえてくる。耳を澄ましていると「さー」、潮さいだとわかる。カゴメたちの鳴声も飛び交ってきた。まるで海の浜辺にトリップしたようだ。そんな気分に浸っていると幕が上り出した。幕が下から上へ上がっていくにつれてステージ中央には階段を模した舞台が覗かれ、そして徐々に、その上に立つ真知子さんの足元からやがて全ての姿が現れ尽くした。トーン・ダウンした照明に照らされ、身にまとっている白の衣装がミステリアスな光を放っている。その薄暗さを演出した空間の中、うつむき加減に静かに佇んでいる真知子さんの姿は今でも脳裏に焼き付いている。僕以外の聴衆も「あっ」と思うや否や、いきなりステージの世界に引きずり込まれた瞬間だったに相違いない。そして35周年のオープニングを飾ったナンバーは「海につれていって」...。アコースティック・ピアノの伴奏とともに明るい表情で謳歌していた。ファースト・アルバム録音時で聴かれるより、その歌声は勢いを重視した、がゆえにこの楽曲の持つピュアな気持ちは力強さに拍車が掛かり一層そのポジティヴ感は度を増したようだ。その立ち居振る舞いを一瞬も見逃すまいと目を見張りつつ傾聴への集中を保つ。