渡辺真知子 Live at Sakura Hall―3

「あなたのことは妻より聞いています」とお話下さり驚いた。「あ、そうですか?!」と思わず当の本人に目をやると彼女の視線は下を向いていた。兎に角「いやー、もう、ほんとに有難うございます」と会釈を入れた。自分は緊張していたのだがこのご主人の一言で気が楽になった。ファン仲間たちは、何も打ち合わせるような素振りを見せず誰彼とも無くふわっと会場へ入っていく。開演時刻まで15分ぐらいはあった。僕は「えっ、はれ。行くの?」と取り残された気分だった。みんなでライブの見所など確認作業会議があると思っていたが全然ありゃぁしなかった。僕もその場でただ一人立ち尽くすわけにもいかない。ふて腐れて見たかったがそれは大人気ないからはぐれないようあとに付いて並んで歩く。先のご主人と前後関係になった。お互いの指定席を確認し合い目指して歩く。その短い道中、僕は奥様が真知子さんデヴュー以来35年ものファンを続けていることに尊敬の念を持ち、そして知り合いにまで発展出来たのは幸せである事と自身が16年振りのライブだというふうに話した。ご主人は「もう、(真知子さんのことなら)良―く知ってる」「へぇー」とレスポンスが返って来た。ここでお互いの席に向かうため別れた。ご主人は「じゃぁ楽しんで」と振り向き様に言葉を残してみんなと一緒に前の方へ進んで行った。僕はひとり5列目を目指す。場内は半分人ぐらい埋まっていただろうか。着席すれば、みんなは2列目の席に居た。あと10分ぐらいある。