NHK「あの人に会いたい」−48

タイマーズは全員、サングラスにヘルメット姿で変装をしていた。清志郎さんの横へ位置し「清志郎さんでしょ?」と笑いながら尋ねてマイクを向けると、清志郎さんは言葉を発せず、ポンポンポンッと右手で古館さんの肩を叩いていた。清志郎さんは、自分が清志郎という人物ではなく、ゼリーという名の別人であると公言していたのだ。古館さんは「ふっふっはぇっ、はぇっ、はぇっ」と笑っていた。タイマーズが解散を終えてから直後だっただろうか、FM横浜の宇崎竜童さんの番組で清志郎さんがゲスト出演したことがあった。多分、このときだと思う。宇崎さんが笑いながら訊きづらそうに「タイマーズっていうのをやってましたよねぇ。どうですか、今から振り返ると?」みたいな質問を投げていた。清志郎さんは「一応、(私は)スターになったんでけど、そのスターがああいう事をやっても世の中は変わらない(ダメだ)というのがわかったんで...」と感想を漏らし、また「やってみてわかり、よかった」と答えていたような気がする。僕はその現実的な発言に耳を奪われ、漠然と、この世の中っつうものは将来展望もままならない、夢のない、つまらない世界なのだと思い描いたのだった。あの清志郎さんがやっても引っ繰り返らないのか、みたいな。僕はタイマーズのTシャツを持っている。レコード会社が宣伝用に作ったものである。今まで着ないでずうっと保管していたが最近着用を始めた。今のところ誰も気付かない。そのうち、もっと人目の付くところを歩いてみよう。