NHK「あの人に会いたい」−33

いつの間にか人間に備わった思考システムの1つー「失礼に当たる」という言葉が相応しいのか。いや、さらにその感応の適切さを求めて「礼儀に反する」という表現を採用したい。矢沢さんが全神経を集中して僕の隣人と握手や言葉を交わしたことは、同時に、世で云うこの「礼儀」をも自然に実践していたのだ。再三持ち出して恐縮だが「僕の考えが過ぎている」との結論は、目の前の人と相対している最中の矢沢さんに僕の妄想が入り込む余地はないとする見立てと、この「礼儀」と合交われば僕が目にしたその現象は見誤りだと是正を成す見立てー、この2本立てから鑑みても正しく着地出来るのである。着地完了後しばらくしたら、何某かのポーズでも伴なって、その屈折し偏った産物―まさに妄想を、胸を張って自らの体内から排除してよい。「礼儀」とは何やら頭を冷やす作用もあるらしい。クール・ダウンを施され考える方向の修正を助太刀してもらって、感謝の念が沸く。「感謝」、これまた世の中で永遠不変に続くシステムですな。こうした揺ぎ無き絶対的価値観は忘れずにいたい。