NHK「あの人に会いたい」−2

清志郎さんは母が再婚して生まれた子供であること、そして清志郎さんが3歳ぐらいのとき母が亡くなったという事実に暫し我が思考は奪われた。全く知らなかった。そして驚いたというのは、清志郎さんが社会性のあるテーマ、中でも戦争がらみを取り上げる理由である。それは母親から端を発していたのだ。ファンの間では周知の事実なのだろうか?全く知らなかった。残されたその母が書いた手紙や短歌の遺品が画面に映し出される。最初の夫がレイテ島で戦死したときの句である。「帰らざる人とは知れど我が心 なお待ちわびぬ夢のまにまに」。清志郎さんの10年ぐらい前のトーク番組の映像が流れ、「戦争で一番傷付くのは一般人であるのはTVとかでよく知っていたんですけど」とその知識は備えていたものの、そのあとになって母の遺品と対面した機会があったご様子で「遺品には国への怨みつらみが綴られているんですよ」と、もっと身近に、身内に傷付いた戦争被害者がいたという事実に「(僕には)凄いことだったんですよ」と続けた。自身の身に起こったその凄まじい衝撃性というものであろうか、司会者と対峙して席に付きながら観覧席の前で、やっぱり清志郎一流の表情を変えない自然な面持ちでクールに語っていた。「理不尽な苦痛は二度とあってはならない。清志郎さんは自らの心の叫びを歌い続けます」とナレーターが言う。ステージ上の清志郎さんの画面に切り替わり「この世界中から戦争がなくなること。それが俺の夢です」と語れば聴衆からは「イェー」とレスポンスする様子が流れ「夢」という曲が演奏される。この空間に清志郎さんのお母様が現れたような気になりながら、TVの中の清志郎さんと聴衆を眺めた。
この番組のHPにある紹介文を引用する。「〝あの人に会いたい″はNHKに残る膨大な映像音声資料から20世紀の歴史に残る著名な人々の叡智の言葉を今に甦らせ永久に保存公開する人物映像ファイルを目指す番組です。復刻されたあの声・あの表現は今も多くの人々の心にひびきます。また若い人々にとっては活字でしか知らない歴史的人物の生の声や表情に接する生きた素材となるはずです。これまで映像による人物の記録を体系的に保存してきた記録はなく、映像文化の保存・伝承という公共放送NHKが受け持つべき文化性の高い事業といえるものです」。